書籍: 『祈り―信頼の源へ』(サンパウロ)


祈り―信頼の源へ』(サンパウロ)
祈り―信頼の源へ
『祈り―信頼の源へ』[サンパウロ] (1996/7/1) 
共著: マザー・テレサ、ブラザー・ロジェ(翻訳: 植松 功) 


最初に読みたいテゼの本

テゼ共同体の創始者であるブラザー・ロジェとマザー・テレサが共同で著した本です。一般の書店でも入手できます。ブラザー・ロジェのことを知らない人が、おそらく一番最初に手に取るテゼの本ではないでしょうか。

マザー・テレサとブラザー・ロジェは、その霊性やビジョンにいくつもの共通点があり、個人的にも深い親交を持っていました。ふたりは3冊の本を共著しましたが、この本は最後の一つです。あとの2冊は、残念ながら日本語に訳されていません。

  • Mary, Mother of Reconciliations (1989)
  • Meditations on the way of the cross (1987)
  • Seeking the heart of God : reflections on prayer (1993)

祈りを深める黙想のテキスト

この本のタイトルは原文通りに訳すなら、『神のみ心を探し求めて――祈りについての黙想』といったものです。つまり、心の祈りを深める黙想のテキストとして用いることができる本だと思います。

文章は誰もが感じるような具体的な視点から出発します。そして福音の核心が単純な言葉で語られ、結びに祈りで終えられています。ふたりの祈りのバトンを螺旋のように読み進めていくうちに、私たちも深い心の静けさへ導びかれるようです。


ふたりが見た福音のきらめき

マザー・テレサとブラザー・ロジェに共通していたのは、つねに人々の苦悩に向き合い、祈り、そしてその祈りを具体的に生きたということではないでしょうか。ふたりは、内なる静けさと苦悩する人々と連帯することは、分けることができないと考えていました。

この本には、苦悩や絶望に飲み込まれそうな現実のただ中で、マザー・テレサとブラザー・ロジェが見た福音のきらめきと神の愛に対するゆるぎない信頼が綴られています。


本の構成

この本は、12の章から構成されていて、各章をマザー・テレサとブラザー・ロジェが半分ずつ執筆しています。

ひとつの章は、まずマザー・テレサの文章からはじまり、次にそしてブラザー・ロジェの文章が続きます。ふたつの文章は深く共鳴しあっていて、伝え方が違っても、語られているメッセージには驚くほど共通点が見えます。

  目 次
    はじめに

  1. キリストと一つに / 内なる光
  2. かけがえのない者 / 今日ぜひあなたの家に泊まりたい
  3. 喜び、それは祈り / 喜べ、単純な心よ
  4. とても単純な道 / 内なる声
  5. 神――沈黙の友 / 心の平和
  6. いつもわたしたちの内に / わたしの国は、あなたがたの内に
  7. わたしはキリストを、キリストはわたしを / 観想のまなざし
  8. まったき信頼 / もし、すべてが信頼の心から始まるのなら
  9. 澄んだ心 / 神の喜びが地上に
  10. わたしたちの家をイエスに / 和解の源へ
  11. キリストの体、教会 /交わり(コミュニオン)の神秘
  12. 貧しい者に仕えるために / 連帯

  13. マザー・テレサ
    ブラザー・ロジェ

はじめての人にも

ちょっとした時間で読めてしまう短い本なので、キリスト教についてあまり詳しくない人への贈り物にもよいと思います。マザー・テレサとブラザー・ロジェの祈りに導かれて、自分の人生にも、美しい可能性が秘められているかもしれないと励まされる人は少なくないと思います。

すでに何度も読んでいても、読み返すたびになにか新しい発見があるかもしれません。読むごとに、澄みきった祈りに包まれながら、信頼の道を歩む新たな力をいただくような気がします。

もうひとつ気づくことは、文章が美しく、とても読みやすいことです。ブラザー・ロジェやマザー・テレサの本は、校正に割くリソースが限られているのか、タイポや翻訳が分かりづらい箇所が結構あったりしますが、この本はかなりしっかり校正がしてある印象です。


共同の祈りやメッセージも

ふたりによる文章のほかに、エリザベス・マーチャンドによる前書きでは、マザー・テレサとブラザー・ロジェが親交を深めていった経緯が簡単に解説されています。そこでは、共同で考えたという祈りやふたりが発表した「和解を呼びかける声明」なども紹介されています。

巻末には、マザー・テレサとブラザー・ロジェについて、それぞれの人生の歩みを辿りながら紹介するページが収められています。


入手方法

キリスト教書店、インターネットの他、一部の一般書店でも取扱いがあるようです。




(ブラザー・ロジェの文章から、以下に一部をご紹介します。)
今、あなたは、いろんな出来事のショックから、大きな試練や破壊された関係の中に置かれているかもしれません。あるいは、軽蔑され、侮辱され、あなたの中にあるもっとも純粋なあこがれは、ゆがめられてしまっているかもしれません。
魂の隠れた傷をいやすのは、貧しく謙遜な祈りです。そして、そこで人間の苦しみの神秘が変容させられてゆきます。生ける神の息吹は、貧しく弱いところに注がれます。神は、命の水を、このようなわたしたちの傷のただ中にわき上がらせるのです。神を通して、涙の谷は命の泉となるのです。
喜べ、単純素朴な心よ! その心の平和から、福音の喜びが自然にわき上がってくるのです。
すべての人の神よ
あなたは わたしたち一人ひとりのうちに
  消し去ることのできない贈り物を与えられました
  それは あなたの現存の鏡となる豊かさ
あなたは 聖霊によって
一人ひとりのうちに あなたの愛の意志を刻みつけられました
  石の板の上にではなく
  わたしたちの魂の深みに刻みつけられたのです
そして 内なる平和を通して
あなたは わたしたちを招いておられます
  まわりの人びとのために
  人生を 人の命を すばらしいものにするようにと
             
ブラザー・ロジェ

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